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《座談会》
藤森工業、カルナバイオサイエンス、神戸医療産業都市推進機構
Interview 2020年1月
研究者を引き寄せる吸引力
神戸医療産業都市推進機構(以下・機構)
最初にお二人が所属する企業の概要を教えてください。
藤森工業
当社は包装資材メーカー、それも専門は軟包装といって医薬・医療・化粧品・食品向けの包材や詰め替えパウチなどを手がけています。創業は106年前で、包装資材から、エレクトロニクス材料や建築系の防水シートへと事業を広げてきました。私は先端医療事業推進部に所属し、再生医療関係の研究開発を行っています。
カルナバイオサイエンス(以下・カルナ)
当社の主要事業は2つあり、キナーゼ(酵素)を活用した製品の製造販売と創薬です。藤森工業さんと違って、創業が2003年と歴史はまだ浅く、創薬ではアンメット・メディカル・ニーズを主な対象としています。
機構
具体的にどのような業務に携わっておられるのですか。
藤森工業
私が担当しているのは再生医療やバイオ医薬品に関わる製造技術開発、もう少し具体的に説明すると各種細胞の培養技術の開発です。
カルナ
創薬部門で、新薬をつくるための新しい物質合成が私の仕事です。毎日、複数の試薬を混ぜて化学反応を起こし、新しい物質づくりに励んでいます。
機構
新物質から新薬ができる確率は、とてつもなく低いと聞いたことがあります。
カルナ
おっしゃる通りで、新薬になる確率は2万分の1から3万分の1といわれています。そのため新薬開発には時間がかかり、薬が1つできるまでには、だいたい10〜15年ぐらいかかりますね。
機構
神戸にはどのような経緯で来られたのでしょうか。
藤森工業
私は関西出身で、最初の赴任地は横浜の研究所でした。研究施設がこちらに移ることになり、関西に戻ってきたのです。横浜時代は企業の研究施設が点在していましたが、クラスターを形成していなかったので、神戸医療産業都市に初めてきたときにはかなり驚きました。同じエリア内にこれだけ研究施設が集まっていると、流れている空気が横浜時代とは違う感じがしますね。
カルナ
私も関西出身ですが、大学院を出て最初に務めた会社は、中国地方にありました。担当していたのは今と同じ物質合成ですが、藤森さんがおっしゃるように以前とは周りの環境がまったく違いますね。通勤時にポートライナーに乗っていても、自分と同じような職種の人がたくさんおられるようです。
ひたすら実験に没頭する日々
機構
普段は、どのように仕事をされているのでしょうか。
藤森工業
いま取り組んでいるのは、細胞の培養技術と培養装置の開発です。実際に装置を作って実験して試します。これを繰り返すのですが、1つの実験に1カ月ぐらいかかります。実験では細胞を使うため、始まると思うように休みを取れないこともあります。
カルナ
私の場合は、実験にかかる前にどんな化合物を作りたいのか、イメージを思い描くのがスタートです。続いて論文などを参考にしながら、化学合成のデザインを考えます。あとは、ひたすら実際に化学反応を起こし、結果を見ながら条件を少しずつ変えていくわけです。
機構
なかなか根気が求められる作業ですね。
カルナ
実験は、そういうものですね。調子の良い日には狙い通りの化合物が1日に2つぐらいできることもあります。逆に、何日かかっても1つもできないこともありますが。
藤森工業
だからこそ思った通りの結果が出たときはうれしいですよね。再生医療分野での培養技術の研究開発は、日本では発展途上です。スポットライトが当たるのは病気を治す細胞であり、細胞を扱うお医者さんで、あくまでも我々は黒衣的な存在です。けれども、細胞を培養できなければ治療もできないわけで、縁の下の力持ちとしてのやりがいはありますね。
カルナ
私たちが開発しているキナーゼ阻害薬も、薬になれば患者さんに大きなメリットがあります。バイオ医薬品と違って、キナーゼ阻害薬は低分子化合物だから経口投与できる、つまり自宅で服薬できてQOLの向上につながりますし、コストも抑えることができます。
機構
最近「バイオインフォマティクス」という技術用語を聞くのですが、皆さんも使っておられるのでしょうか。
藤森工業
研究自体には興味がありますが、少なくとも当社ですぐに導入というのはなさそうです。シミュレーション技術に関する検討は進めていますが、細胞を扱っているため、最後は必ずウェットな実験で確かめなければなりませんから。培養中の環境と細胞の応答の関係性は未知の部分が多いので、技術導入のハードルが高いです。今後の技術動向に期待したいです。
カルナ
私も個人的には興味があります。当社でもバイオインフォマティクスを活用して、実際に生体内にどれだけのキナーゼの種類が存在するのか、どのような生体反応を制御しているのかなど、ヒトゲノムを用いて予測したりしています。
最先端、超一流の研究者と出会う機会
機構
神戸医療産業都市のどんなところに魅力を感じていますか。
藤森工業
横浜のラボは医療特区などではなかったので、同業他社との接点などまったくありませんでした。その点、神戸に来てからは、さまざまな立場から医療に関わる多種多彩な人と知り合う機会があり、良い刺激を受けています。出張に行く際にも飛行機を使えるので便利ですね。
機構
勉強会には参加されていますか。
藤森工業
再生医療勉強会に参加できるのは、非常にありがたいです。再生医療に関する最先端の研究者から直接お話を聞ける。それも2カ月に1回とは、なんともぜいたくな限りです。しかも講演会場まで10分足らずで行けるのは、ありえないほど恵まれた環境だと思います。
カルナ
再生医療とは直接関係のない私でも、お名前を知っている先生方の講演会なので、折をみては参加しています。分野外の知識とはいえ、それが新しいアイデアにつながることもありますから。会場で出会う方とお話する中で、新しい化合物のヒントをいただくケースもありますね。
交流会そして連鎖反応からイノベーションへ
機構
交流会についてはいかがでしょう。
藤森工業
楽しみにしています。当社が幹事を務めたこともありますから。交流会を通じて、ネットワークが広がっている実感があります。カルナさんと知り合ったのも、交流会でした。
カルナ
人脈が一気に広がり、ボルダリングやバドミントン、スポーツ観戦をしたりと社外の人と気楽に楽しめる。これは交流会がキッカケです。バンド演奏あり、クイズ大会ありと次の企画を楽しみにしています。
機構
交流会で心がけているのは、参加者の皆さんがお互いを知ることです。交流会を通じて生まれた活動が、発展していると聞かせてもらうのは、裏方としてうれしい限りです。
カルナ
オープンイノベーションカフェで、新たな知り合いができるケースもありますね。
藤森工業
このエリア内に「医療」をキーワードとする企業や研究機関が360も集まっている。交流が深まっていけば、自然に連鎖反応が起こり、新たなイノベーションにつながるのではないでしょうか。
機構
そうなるように、これからもいろいろ企画を仕掛けていきます。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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