CASE 02

細胞×輸送システム

細胞を生きたままで
安全に運ぶ——。
再生医療を支える細胞輸送のモデルを神戸から。

タキゲン製造、JFEテクノリサーチ、スズケンほか

Interview 2019年1月

STORY 01

大きなビジネスチャンスを秘めた細胞輸送

病気治療や研究で使われる再生医療用の培養細胞は、人と同じ“生き物”です。振動や揺れに対して極めて脆弱で、医療機関や研究機関に細胞を輸送する際、外部から強い衝撃を受けたり、異物が混入したりすると組織が破損し、使いものにならなくなってしまいます。産業金物の総合メーカーであるタキゲン製造と異業種3社が共同で開発に取り組むのは、再生医療用の細胞を振動や温度などの環境因子に影響されることなく、生物活性を維持したまま目的地まで安全に送り届ける輸送システムです。タキゲン製造が有する固有技術をベースに、「振動軽減装置」を共同で開発します。

「超高齢化が進む中、医療、とりわけ再生医療分野への進出は、当社も含めて共同開発にあたる4社の共通目標。その目標を実現するために、再生医療の発展とともにこれから需要の伸びが期待される細胞輸送にターゲットを絞り、これまでにない新しい輸送システムの開発に挑戦します。」(駒田氏)

STORY 02

出会うはずのない異業種4社、ゼロからのスタート

共同開発に参画するのは、タキゲン製造のほかに、医薬品卸大手のスズケン、鉄鋼大手のグループ会社で医薬品・医療機器などの開発支援・評価などを行うJFEテクノリサーチ、物流ソリューション企業の計4社。本来なら出会う機会などほとんどないはずの異業種間の結び付きは、神戸医療産業都市があったからこそ生まれました。

「神戸医療産業都市に拠点をもつ企業として医療に特化した新事業を模索し、細胞輸送に的を絞り始めた頃、神戸医療産業都市推進機構(FBRI)のアドバイザに相談を持ちかけ、関係先を数社ご紹介いただいたのがそもそものきっかけです。その後細胞輸送プロジェクトが発足し、4社で市場調査の勉強会を始めました。」(駒田氏)

とはいえ再生医療は、メンバー全員にとって、まったくの異分野。知識も経験も乏しい中、FBRIから紹介を受けた企業や研究機関を訪ね、現場ニーズをヒアリングし、定例のミーティングで意見交換しながら事業化の可能性を探りました。またFBRIが主催する『再生医療勉強会』に積極的に参加するなど、外部と接触する機会をできるだけ増やし、第一線の研究者や医療関連の企業との交流を深める中で、細胞の死滅率が高い凍結輸送ではなく、生きた状態で細胞を運びたいというニーズが多いことも分かりました。

「この頃には、メンバーも互いに気心が知れ、意思疎通もスムーズに運び、自分たちのプランを絶対にカタチにするという強い想いを全員で共有していました。」(駒田氏)

STORY 03

再生医療進出への扉を開いた神戸医療産業都市

FBRIの「研究開発助成金制度」(*)の適用を受け、経済基盤が強化されたプロジェクトは、事業化へむけて新たな一歩を踏み出しました。当面の目標は、来年度中に生きた状態の細胞を目的地まで安全に送り届けられる実証をすること。いずれは大手製薬会社や第一線の研究者の要求にも応えることのできる細胞輸送のモデルシステムを完成させるのが、最終目標です。

「その夢にむけて、いまは“どんな細胞が振動に弱いのか”、“どういうお客さまが、それを運びたいと考えているのか”など、ターゲットをさらに明確にするための調査と市場開拓の戦略立案を進めている段階です。」(駒田氏)

現在、再生医療の細胞輸送は凍結輸送が一般的で、生きた状態の細胞を運ぶシステムは、まだ実用化されていません。プロジェクトチームは、神戸の地から新たなモデルを発信したいという大きな夢を描いています。

「当社は、医療用製品を多く手がけるものの、再生医療は未知の領域。新規参入の足がかりをつかめたのは、神戸医療産業都市に拠点を持ち、FBRIの手厚いサポートや交流の場を通じて、いままで接点のなかった異業種の企業の方々や研究者の先生方と出会うことができたからです。当社だけで、ここまでたどり着けたかどうか。神戸医療産業都市は、未来への扉を開くカギでした。」(駒田氏)

*研究開発助成金制度:神戸医療産業都市に集積した企業や研究機関・大学、医療機関などの連携融合を一層強化し、新たなイノベーションの創出を促進するため、創設20周年にあたる2018年に創設された助成制度。

連携図

連携図

PROJECT LEADERプロジェクトリーダー

タキゲン製造株式会社
神戸支店 営業課 係長

駒田 久子

1995年、タキゲン製造株式会社入社。製品開発から営業の現場まで、幅広い部署を経験した後、2011年に神戸支店配属。2015年から再生医療分野への新規参入を目指し、細胞輸送にテーマを絞って情報収集とニーズ探索にあたる。2016年、医療用機器開発研究会の幹事就任。4社合同の細胞輸送システム開発プロジェクトでは、中心的役割を担う。

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