INNOVATION.06

ロービジョン患者の服薬支援ツールの開発

地方独立行政法人神戸市民病院機構
神戸市立神戸アイセンター病院

全国に約150万人いると言われるロービジョン患者に対して、生活支援にさまざまなデジタル機器が近年登場していますが、服薬(薬を服用したり、点眼したりすることの)支援に関してはまだデジタル機器が十分活用されていないのが現状です。そこで神戸市立神戸アイセンター病院では、患者が保持している視機能を最大限に活用し自立した快適な生活を送るため、デジタル機器を利活用した服薬支援ツールの開発に取り組みました。

新たな服薬支援ツールの開発

薬物治療における薬剤師の役割は、薬剤師による「投薬」と患者による「服薬」を適切に実施できるようにすることで、薬物治療の効果を最大化することです。「投薬」については病院や保険薬局での説明時に患者の理解度を確認することは可能ですが、「服薬」に関しては、自宅での管理を患者にお願いするため、薬剤師が直接確認できないことが問題となっています。

特に点眼薬による薬物治療では、ロービジョン患者において薬袋や薬剤情報提供書に記載している内容を視認しづらいことから、服薬アドヒアランス(患者が医療者からの推奨に同意し、服薬や食事療法、生活習慣の見直しを実践すること(WHO 2003))が低下することもあり、薬物治療による効果を十分に得られない場合もあります。また、薬剤師が患者の服薬状況を把握することは困難であり、医療者が患者の服薬アドヒアランスを正確に確認し、その情報に基づいて服薬支援を行うことができるシステムが切望されています。

神戸市立神戸アイセンター病院はこうした状況に鑑みて、2019年度よりデジタル機器を活用した服薬支援ツールの開発に乗り出しました。本事業はロービジョン患者の安全かつ確実な点眼薬治療の継続を目的とし、さらには患者の点眼状況を医療者が直接モニタリングできるシステムへと発展させることで、個々の患者に応じた適切な点眼指導を実現するとともに点眼薬治療の効果改善を目指します。


薬物治療フローと課題


服薬アドヒアランスの難しさ

点眼動作を補助するシステム

本事業では、点眼薬の使用状況を直接管理するためのツールの開発を目標とし、点眼容器に装着し使用を支援する点眼補助デバイスと専用アプリの開発に取り組みました。開発した点眼補助デバイスでは、点眼動作を検知する機能に加え、ブザー音とLEDにより患者に点眼の順番を通知する機能を搭載しました。また専用アプリは、点眼補助デバイスからの動作情報を記録することで医療者側が患者のアドヒアランスを把握できるようにしました。

点眼補助デバイスや専用アプリの使用感等は医療スタッフや患者での検証を行うことで、挙がってきた問題点や改善点を精査し、デバイスの改良を検討しています。


点眼補助デバイスと専用アプリの開発

開発ツールに期待できる多様なメリット

本事業で開発した点眼補助デバイスと専用アプリは、緑内障などのロービジョン患者の点眼手技指導に活用することが可能であると考えます。点眼補助デバイスおよび専用アプリから得られた点眼手技の改善点を薬剤師が指導することで、点眼薬のアドヒアランスが改善し、点眼薬治療の最大効果を得ることができると考えられます。また、保険薬局が本ツールを導入することで患者一人一人の薬物治療に関する双方向の情報プラットホームの整備が可能となり、病院と保険薬局が本ツールを活用できるようになれば、ロービジョン患者の継続した治療効果の向上と地域での患者支援体制の構築にもつながります。

今回の成果を踏まえ、神戸市立神戸アイセンター病院では神戸医療産業都市推進機構と連携し、製薬会社など多方面に協力を求めながら点眼補助デバイスと専用アプリの開発を継続していく方針です。


アドヒアランス改善に向けて



※こちらの記事は抜粋版です。
『神戸医療産業都市 研究開発助成金 成果抄録集』の全編は こちら »

PROFILE

地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立神戸アイセンター病院

設立:2017年12月

事業内容:神戸市立医療センター中央市民病院眼科と先端医療センター病院眼科を統合して診療機能を拡充した日本で唯一の公的な眼科専門病院である。神戸市の基幹病院として眼科地域医療の中核を担いながら最先端の高度眼科医療を提供。また、視覚障害者のリハビリや社会復帰を支援し、iPS細胞治療の臨床応用など世界をリードする医療研究・開発にも取り組んでいる。

地方独立行政法人神戸市民病院機構 神戸市立神戸アイセンター病院 URL: https://kobe.eye.center.kcho.jp/