INNOVATION.05

超音波検査画像を活用した卵巣がん
早期診断AIの開発

ネクスジェン株式会社

卵巣がんは、女性性器がんの中で最も死亡者数の多い疾患です。厚生労働省のデータによると、2019年に卵巣がんと診断された人は1万3388人と報告されており、罹患数も死亡者数も年々増加傾向にあります。発生原因は未だ解明されておらず、1人でも多くの女性を卵巣がんのリスクから守るためには、早期発見が重要です。
そこでネクスジェン株式会社では、超音波(エコー)検査画像と最新AI画像解析技術を活用した、新たな卵巣がん早期診断システムの開発を行いました。

早期発見が難しい卵巣がんへの挑戦

卵巣は骨盤の奥深くにある親指の頭ほどの小さな臓器で、腫瘍が発生しても初期段階では異変を感じにくいという特徴があります。そのため、自覚症状が現れた時にはすでにがんが進行していたり、他の臓器へ転移していたりすることも少なくありません。また、現在は指針として定められている検診がなく、科学的に根拠のある検診方法も確立されていません。広く普及している超音波検査装置は術者の手技に依存しており、CTやPET、MRIなどの精密検査機器は大規模病院に設置されていることが多く、早期診断の障害となっています。

このような現状を危惧したネクスジェン株式会社では、婦人科腫瘍領域で豊富な実績を持つ神戸市立医療センター中央市民病院と共同研究を実施。普及率の高い超音波検査の画像と最新AI技術を活用することで、術者や施設の規模に依存しない標準的で高精度な卵巣がん早期診断システムの開発に取り組みました。

実現すれば、低侵襲な超音波検査手法が確立でき、従来の手術による確定診断も簡便化され、早期発見の可能性が広がります。また、産婦人科医が執刀しなくても診断が行えるため、医療費抑制や医療従事者の業務軽減が期待でき、医療過疎地でも検査を実施しやすくなります。


高精度の早期診断AIモデルを構築

卵巣がんは、画像検査や診察では良性と悪性の区別が難しく、手術前診断と手術後の病理検査の結果が相反することもあります。また腫瘍マーカー検査は、再発の早期発見に有効であっても、腫瘍の悪性度や進行具合の判定はできないため、画像検査などを組み合わせ、総合的に判定が行われることが一般的です。

そこで同社は、神戸市立医療センター中央市民病院産婦人科が保有する超音波検査画像とその病理検査画像による診断結果を教師データとし、画像認識AIアルゴリズムを学習させることで、超音波検査画像による卵巣がん早期診断AIモデルの構築を目指しました。

同病院産婦人科より提供された482症例の教師データを学習し、画像認識アルゴリズムを構築した結果、経験豊富な医師の正診率75〜80%程度に匹敵する精度を達成。さらに、画像認識悪性症例の見逃しが最も少ないモデルとしての調整も実施し、単一施設で比較的少ない症例数での学習精度の検証、学習・判定対象となるデータの画一化、情報セキュリティシステム(ISMS)の認証取得も行いました。

同社は今後も本システムの開発を継続し、将来的にはクラウドシステムとして神戸市内の医療機関に提供することを目指しています。さらには、各患者のデータをクラウドサーバに蓄積し、ビッグデータとして活用することで、市民の健康福祉増進と患者QOLの向上につなげたいと考えており、その実現に期待が高まります。



※こちらの記事は抜粋版です。
『神戸医療産業都市 研究開発助成金 成果抄録集』の全編は こちら »

PROFILE

ネクスジェン株式会社

設立:2016年

事業内容:「造血幹細胞関連のバイオ技術と、AI機械学習のデジタル技術の融合により、最先端かつ独創的な技術開発と革新的な製品・サービスを提供しているベンチャー企業。神戸医療産業都市にある研究開発拠点「神戸バイオラボ」では、幹細胞に関する最先端研究を行っている。

ネクスジェン株式会社 URL: https://nextgem.jp