INNOVATION.04

培養評価法開発に向けたエクソソームの
解析

株式会社日立製作所

株式会社日立製作所では、2002年から再生医療の普及に向けた細胞自動培養技術の研究に取り組んでいます。長年の努力により誕生した閉鎖系自動培養装置「iACE2(アイエースツー)」は、再生医療製品の製造に必要な細胞を同時に大量培養することができ、iPS細胞の増幅や分化培養が可能な汎用装置として注目されています。
同社は、世界に誇る自動培養技術をさらに有用にするため、安全かつ高品質な細胞を製造する上で欠くことのできない新たな培養評価手法の研究に取り組みました。

培養上清に含まれるエクソソームの特性に着目

再生医療向けの移植に適した安全な細胞製造には、クリーンルーム内での専門技術者による手技培養が欠かせません。しかし、高額な設備の維持管理費や人件費が再生医療の普及を妨げています。また、技術者のスキルに依存している細胞品質の担保が重要であり、人が培養作業を行うことによる生物学的汚染も懸念されています。

これらの課題を解決するため、日立製作所では再生医療用細胞製造のための閉鎖系自動培養技術の開発に着手。神戸医療産業都市のオープンイノベーションにより、2019年3月にiPS細胞を大量に自動培養する装置「iACE2」の製品化を実現しました。

また、島内の進出企業である住友ファーマ株式会社や、京都大学iPS細胞研究所の髙橋淳教授と共同研究を実施し、iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の実現化に向け、ドパミン神経前駆細胞の大量製造技術を開発。さらにその安全性を評価する手法も確立してきました。

細胞培養のさらなる品質向上のためには、直接細胞に触れることなく培養の状態をモニタリングし、培養過程でリアルタイムにフィードバックできるシステムの開発が必要です。しかし、現在まで有効な手法は確立されていません。

そこで同社が着目したのは、培養上清です。培養上清中に含まれるエクソソームは、放出元細胞の情報となる物質を多く含有することから、培養状態を正確に反映するモニタリング指標として活用できると予想。新たな培養評価手法の確立を目指し、エクソソームの解析を行いました。


閉鎖系自動培養装置iACE2

医療グレードの細胞製造を可能にする単回使用の完全閉鎖系モジュールを採用。同時に10億個の細胞を大量培養でき、全対象疾患で共通基盤工程であるiPS細胞の増幅および分化培養が可能な汎用装置。
(※iACEは株式会社日立製作所の登録商標)

エクソソームはモニタリング指標として有効と判明

本研究では、エクソソーム由来の指標候補から、実際の培養で機能するモニタリング指標を決定しました。具体的には、エクソソームの培養上清中の粒子数密度や形態、RNAやタンパク質等のエクソソーム構成因子などの指標候補について、iPS細胞の増殖過程とドパミン神経前駆細胞への分化誘導過程において、細胞増殖や分化状態などの細胞状態を反映するかどうかを検証しました。

その結果、iPS細胞の増殖過程では、培養上清中エクソソームの粒子数密度を測定することによって増殖をモニタリングすることが可能であること、またiPS細胞からドパミン神経前駆細胞への分化誘導過程においては、エクソソームマーカータンパク質のCD63の発現量が、分化効率の悪い培養を早期発見できるモニタリング指標として有効であることが判明。培養上清中のエクソソームが、細胞状態を反映する優れたモニタリング指標となる得ることが明らかとなりました。

同社では、エクソソームを用いた自動培養装置によるフィードバック制御の実現に向け、今後も引き続き研究を推進していく予定です。将来的にはこの技術を再生医療分野において広く包括的に利用される基盤技術へと育て上げ、神戸医療産業都市の発展に貢献することを目指します。


本研究の概要

※こちらの記事は抜粋版です。
『神戸医療産業都市 研究開発助成金 成果抄録集』の全編は こちら »

PROFILE

株式会社日立製作所

創立:1920年2月

事業内容:「IoT時代のイノベーションパートナー」を目指して多様な事業を展開。2017年には再生医療の研究拠点となる「日立神戸ラボ」を神戸医療産業都市に開設した。日立神戸ラボでは、都市でのオープンイノベーションを通じて、再生医療用細胞自動培養技術の研究や製品開発などを加速させ、再生医療の実用化に向けて取り組んでいる。

株式会社日立製作所 URL:https://www.hitachi.co.jp