INNOVATION.03

ユニバーサル核酸医薬の合成原料の開発

国立大学法人神戸大学

神戸大学が独自に開発したユニバーサル核酸は、自身の構造を変化させることで非特異的に核酸配列を認識する唯一無二の人工核酸です。核酸は遺伝情報を持つDNAと、その情報を元に細胞の原材料となるタンパク質を合成するRNAで構成され、生物が細胞を新しく作り出すために欠かせない成分です。神戸大学ではユニバーサル核酸を核酸医薬に応用し、ポートアイランド内で創薬ベンチャーとして事業化することを目指しています。そのためには、核酸医薬の有効成分の合成原料となるモノマーの開発が必要であり、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科が課題解決に向けて取り組みました。

核酸医薬の可能性を広げるために

従来の医薬品である低分子薬や、がん治療に用いる抗体医薬に次ぐ医薬品として注目を集めている核酸医薬。遺伝情報から創薬が直結する唯一の治療薬であり、将来的には患者一人一人にオリジナルの治療法を提供する「テーラーメイド医療」を実現するためのカギになると期待されています。病気の原因となる遺伝子や異常なタンパク質に働きかける核酸医薬は、治療の難しかった疾患に対する特効薬として日本でも導入が広がっており、その市場は今後ますます拡大すると見られています。

核酸医薬の有効成分は、化学的に機能を変化させた(化学修飾)オリゴヌクレオチドです。オリゴヌクレオチドはヌクレオシドという化合物にリン酸基が結合した物質で、化学合成によって製造されます。製造の原料となるのは、化学修飾が施されたヌクレオシドに、各種保護基とリン酸結合部を導入したヌクレオシドモノマーであり、この溶液を合成装置に装着して核酸医薬の有効成分の製造が行われます。ユニバーサル核酸においても製造工程は同じであり、核酸医薬に適用させるためにはユニバーサル核酸にさらなる修飾を施し、合成原料となるモノマーを開発することが必須です。

これらの課題解決に取り組む神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科片岡グループは、神戸医療産業都市の進出企業であり、修飾ヌクレオシドとそのモノマー化について経験と実績を持つナード研究所に協力を依頼。同社ライフサイエンス研究部と共同研究を実施しました。

共同研究の成果を地域発展につなぐ

本事業では、ユニバーサル核酸の製造基質である修飾型ユニバーサルヌクレオシドribo-PPTの製造について、尿素を原点の原料とする製造方法の確立を進めることとし、まずはribo-PPTの大量製造法について検討しました。製造工程の設計を神戸大学が担当し、工程の最適化と製造をナード研究所で行いましたが、目標達成には至りませんでした。

一方で、神戸大学が掲げる核酸医薬創薬ベンチャー設立という夢は、今回のナード研究所との共同研究を通し、実現化に向けて前進しました。今後も本事業で構築した体制を維持しながら、さらに研究内容を深めて目標達成を目指します。

島内で核酸医薬創薬ベンチャーを開設することができれば、ウイルス性疾患を中心とした遺伝子変異を伴う病気の治療薬開発に挑みたいという神戸大学。ナード研究所でユニバーサル核酸医薬の有効成分を製造する体制も整え、神戸医療産業都市の発展に寄与したいと考えています。


※こちらの記事は抜粋版です。
『神戸医療産業都市 研究開発助成金 成果抄録集』の全編は こちら »

PROFILE

国立大学法人神戸大学

創立:1902年

事業内容:2011年にポートアイランドに神戸大学先端融合研究環統合研究拠点を設置。神戸医療産業都市構想のもとでバイオテクノロジーを使った医療関連の研究に取り組むなど、世界水準のさまざまなプロジェクトを推進し、研究成果を国内外に向けて情報発信している。また、次世代の研究開発を担う人材の育成にも力を注ぐ。

国立大学法人神戸大学 URL:https://www.kobe-u.ac.jp