INNOVATION.02

超音波診断用の新たなゲルの開発による医療技術の開拓

八十島プロシード株式会社

超音波診断装置は、超音波を用いて血流や組織の状態など体内の情報を簡便に得ることができる機器であり、的確な診断や迅速な治療方針の決定等に役立てられています。その技術的進展は目覚しく、CTやMRIの診断領域まで超音波診断が可能となってきました。このたび八十島プロシード株式会社では、超音波診断に用いる新しい医療用ゲル「エコーゲルパッド」を開発。医療のみならず、幅広い分野での超音波診断の発展に貢献するため、その可能性を探りました。

超音波診断の課題を解決する「エコーゲルパッド」

超音波診断は安全性が高く低コストで、検査時間の短縮ができるなど、患者さんへのメリットが大きいことから、近年は病棟や手術室などへ活躍の場を広げています。また、ポータブル機種の誕生で、在宅医療や救急現場でも診断ができるようになってきました。

超音波診断時は、音波を伝わりやすくし、スムーズに操作を行うために、皮膚とプローブ(超音波送受信機)の間に超音波診断用のゼリーを塗ります。しかし、関節や鼻骨など凹凸のある部位には大量のゼリーを塗るため操作がしづらく、診断の安定性が損なわれることが問題視されていました。また、体の表面に近い組織や血流状態の診断ではプローブを患部に圧迫するため、一時的に血流が遮断されたり、患者さんが痛みを感じたりすることもありました。そのため、医療現場ではゼリーに置き換わる「超音波の伝搬性に優れ、皮膚とプローブの間に介在して操作性の良い音響カプラ(超音波を体内に伝える仲立ちとなる物質)」の登場が切望されています。

これらの課題解決に取り組む八十島プロシード株式会社では、体の表面を圧迫せず凹凸部分に沿う柔軟な超音波診断用ポリウレタン材料「エコーゲルパッド」を開発しました。

今回同社では、エコーゲルパッドにさらなる付加価値を与えて用途を拡大させるため、ゲルの超音波伝搬性や生体適合性についての評価などを行い、新たな研究開発に取り組みました。


超音波診断ゲル「エコーゲルパッド」


鼻骨診断用エコーゲルパッド

医療の枠を超え、幅広い分野で活躍できる材料を目指す

本研究・事業では、エコーゲルパッドを構成するゲル(SPUG)の柔軟性を決定するため、原料の配合比を見直して硬度や粘着性を調整し、診断領域に最適な材料を作製しました。その上で、超音波の伝搬性に関わる音速と密度の積を求め、減衰測定を行ったところ、作製したSPUGは超音波の反射が少なく、鮮明な超音波画像が得られる材料であることが明らかになりました。生体適合性については、ISO10993「医療機器の生物学的安全性評価」に規定されている細胞毒性試験・感作性試験・皮内反応試験を専門機関に委託。その結果、基準に適合していることが確認され、生体に悪影響を与えない材料であると示されました。

また、凹凸の激しい部位での操作性の向上と、より簡便な超音波診断を実現する音響カプラゲルの作製にも着手。3DデータでSPUGを鼻の形状に沿うよう成型した鼻骨診断用エコーゲルパッドと、3Dプリンタを活用してプローブとゲルを固定させる治具が完成しました。

これにより、凹凸の激しい部位でも表在組織を潰すことなく、従来の診断ゼリーより鮮明な画像を簡便に得ることが可能となりました。鼻骨診断用エコーゲルパッドについては、商品名を「エコーゲルパッドN」とし、販売を開始しています。

さらに、エコーゲルパッドを応用した超音波内視鏡検査のトレーニング用臓器モデルも開発しました。

一方、エコーゲルパッドの水を吸収してしまう点についても改良に取り組み、新たに水に馴染みにくい「疎水性SPUG」が生まれました(特開2020-183929)。エコーゲルパッドと「疎水性SPUG」を使い分けることで、水を用いた超音波診断や自動車や鉄道等の工業分野、建築分野等の超音波非破壊検査などへの領域拡大も視野に入れています。

八十島プロシード株式会社では今後、エコーゲルパッドの量産化設備を導入し、普及に力を注いで医療分野のさらなる技術発展に貢献するとともに、超音波透過ゲルも応用展開に向けた開発を進めていきます。


固定治具とエコーゲルパッドによる操作性の向上

※こちらの記事は抜粋版です。
『神戸医療産業都市 研究開発助成金 成果抄録集』の全編は こちら »

PROFILE

八十島プロシード株式会社

設立:1937年

事業内容:創業の地は大阪。樹脂(プラスチック)切削加工技術を基盤に、長年日本のものづくりを下支えしてきた。電子部品業界や半導体業界などで磨き上げた技術力を武器に医療業界へ進出。2007年には医療機器分野に特化した専門拠点をポートアイランドに設立した。

八十島プロシード株式会社 URL:https://www.yasojima.co.jp