KBICで働くイノベータ―
FEATURED
PERSON
文字サイズ
KBICで働くイノベータ―
FEATURED
PERSON
FILE.06
吉野 公一郎KOHICHIRO YOSHINO
代表取締役社長
薬学博士
カルナバイオサイエンス株式会社
Interview 2019年4月
PROFILE
1974年、東京工業大学大学院工学研究科修士課程修了。同年4月、鐘紡株式会社入社。薬品研究所で、メディシナルケミストとして創薬研究に従事。ガン研究所グループ長、創薬研究所資源探索研究部長などを歴任。1999年、日本オルガノン株式会社 医薬研究所長に就任。2003年、日本オルガノン株式会社をスピンオフし、医薬研究所のメンバー19名とともにカルナバイオサイエンス株式会社を設立。代表取締役社長に就任、現在に至る。
製薬会社の研究所から独立したスピンオフ型バイオベンチャー
何ものにも束縛されず、自分たちの研究を続けたい――。そんな想いを共有する外資系製薬研究所のメンバー19人が集まって、カルナバイオサイエンスを立ち上げたのは2003年4月。ここ神戸医療産業都市が、船出の舞台でした。
当時は大学発のバイオベンチャーが次々と誕生し、「バイオベンチャーの夜明け」といわれた頃。私たちは新たな時代の空気に背中を押されるように慣れ親しんだ大阪の研究所を離れ、神戸ポートアイランドのインキュベーション施設で新たな挑戦を開始しました。
私たちが研究活動で標的にするのは、キナーゼとよばれる酵素です。人体を構成する60兆個の細胞には518種類のキナーゼが存在し、増殖や分化のシグナルを伝える重要な役目を負っています。このキナーゼがさまざまな要因で変異し、細胞の異常な増殖や分裂を引き起こし、がんや関節リウマチなどの病気につながることが知られています。
カルナバイオは、キナーゼをターゲットとする創薬研究を通じてがんや自己免疫疾患など、いまだ有効な治療法がない疾患の治療に効果のある革新的な新薬の“タネ”をつくり出し、国内外の製薬会社とともに製品化することで世界中の人びとの健康に貢献しようと研究活動を続けています。
パイプラインも充実。米国などで臨床試験もスタート予定
研究は着実に成果をあげ、国内外の製薬会社から注目されるパイプライン(新薬候補化合物)が、次々と生まれています。たとえば私たちが「SRA141」と呼ぶ化合物は、がん細胞の増殖と密接に関わるCDC7キナーゼの活性を阻害し、がん細胞を死滅させるCDC7阻害剤。2016年にシエラオンコロジー(カナダ)にライセンスアウトされ、近々米国において大腸がんをターゲットとする臨床試験(フェーズ1/2)が始まる予定です。
「SRA141」の優れた点は、がん細胞だけに作用すること。正常な細胞はCDC7を失っても生き続けるため、人体への影響も最小限に抑えられます。また乳がんや血液がんなど、ほかのがんへの適用も期待できることから、将来がん治療の画期的な新薬として世界の医療現場に広がる可能性を秘めています。
このほか、リウマチなどの免疫炎症疾患や血液系のがん治療薬として期待される2種類のBTKキナーゼ阻害剤も近々米国と欧州で臨床試験の申請が行なわれる予定。「ブロックバスター(年間1000億を超える新薬)」へと成長する可能性を秘めたパイプラインが次々と誕生し、カルナバイオはかつてない飛躍の時を迎えています。
製薬会社の研究所から分離独立したスピンオフ型バイオベンチャーの強みは、メディシナルケミスト(創薬化学)や分子生物学、評価分析、特許戦略など多様な専門分野の精鋭を結集し、製品化を視野に入れた研究開発ができること。スタートから16年の時を経て、その強みが大きく花開こうとしています。
世界で評価されるブロックバスター創薬に挑む
いまから16年前、大学発のバイオベンチャーがブームだった頃、インキュベーション施設といえば数人を収容できるスモールサイズのオフィスが大半でした。神戸をスタートアップの舞台に選んだのも、関西のメディカルクラスターの中で19人という比較的大きな所帯を収容できる施設がほかになかったからです。その後カルナバイオは一歩ずつ成長を遂げ、メンバーは70名余りにまで拡大。ワークスペースは、2倍以上に広がりました。スピンオフ型バイオベンチャーである当社にとって、会社の成長にあわせてスペースを拡張でき、世界とのアクセスも容易な神戸医療産業都市は、まさに成長を支える「ゆりかご」でした。
私の夢は、長年成長を見守り続けたそんな神戸を舞台に、ブロックバスターとして世界で注目される新薬を生み出すこと。ノーベル賞も夢ではないと思っています。あなたのおかげで命が助かった——。世界中の患者さんが、そんな喜びの笑顔で満たされる日がくることを願って、私たちの研究はこれからも続きます。