FILE.05

未来に花を咲かせる新薬のタネは、
境界を飛び越えた先にある。

和田 耕一KOICHI WADA

執行役員 神戸医薬研究所長
博士(薬学)

日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
神戸医薬研究所

Interview 2019年3月

PROFILE

1994年、京都大学大学院薬学研究科製薬化学専攻博士課程修了。同年4月、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社入社、川西医薬研究所製剤研究部に配属。研究管理部プロジェクトコーディネーショングループならびに製剤研究部でマネージャーを務めた後、2004年、「Boehringer Ingelheim Pharma GmbH & Co.KG」(独)に出向。2006年に帰任し、川西医薬研究所製剤分析研究部部長に就任。2008年、神戸医薬研究所製剤分析研究部部長、2013年より現職。

グローバルR&Dの一翼を担う、アジアで唯一の研究所

日本ベーリンガーインゲルハイムが、兵庫県川西市にあった研究所を現在の場所に移転し、「神戸医薬研究所」としてスタートしたのは2008年11月。神戸医療産業都市の構想がスタートして、10年目にあたる年でした。

神戸医療産業都市に研究拠点を移した大きな理由は、空港が至近距離にあって交通アクセスに優れ、実験施設などの研究インフラが充実していること。そして公的研究機関や医療関連企業が多数進出し、アカデミアとの交流機会にも恵まれ、創薬に関する最新情報の収集に適したロケーションが備わっていたからです。

当時は、親会社のベーリンガーインゲルハイム(独・BI)が急激な市場環境の変化に対応するため、世界規模で研究開発体制の再編を進めていた頃。製剤研究部のマネージャーだった私も、日本の研究所を代表してプロジェクトに参加し、2006年にドイツから帰任した2年後、神戸医薬研究所が誕生しました。

それから10年、神戸医薬研究所はコンパクトなサイズながら、製剤・分析技術と薬物動態に関する研究、日本国内での製品上市にむけた非臨床とCMC開発、そして革新的なイノベーションにつながる新薬シーズの探索という3つの役割を負って活動を続けています。BIグループでは、アジアにおける唯一の医療用医薬品の研究拠点。ドイツ、アメリカ、オーストリアの研究所とともに、グローバルな研究開発の一翼を担っています。

新薬開発の可能性を探索する活動を全世界で推進中

現在BIグループでは、循環器・呼吸器・糖尿病・腫瘍・中枢神経という5つの領域を重点エリアとして、独創的な医療用医薬品の研究に取り組んでいます。しかし有効な治療法がいまだ見つからない病気は、この5つの領域だけに留まりません。そこでBIは、より多くの患者さんの期待に応えるために、従来の治療域を超えた新たなエリアに研究開発の対象を広げ、新薬開発の可能性を探索する活動を全世界で進めています。「Research beyond borders(RBB)=境界を越えた探索研究」と名付けられたこの取り組みは、欧米や中国でもスタートしていますが、日本における活動の中心拠点は、神戸医療産業都市に立地する神戸医薬研究所です。

世界トップレベルの科学技術を有し、ライフサイエンス分野で数々のイノベーションを生み出してきた日本には、注目すべき研究に取り組む大学や企業研究者も多く、大学発のベンチャービジネスが次々と立ち上がっています。そうした研究者や創薬系ベンチャーとアライアンスを組み、「アンメットメディカルニーズ」が高い疾病領域で新たな新薬のシーズを探り、BIの未来を担う新薬パイプラインにつなげていくことが神戸医薬研究所の仕事です。

全国で関連イベントを開催

RBBの取り組みは広がっています。大学の研究者や創薬系ベンチャーとの交流の機会を広げるイベントを各地で開催してネットワークを拡大。ライフサイエンスや創薬で新たなイノベーションのアイデアを募集して、製品化や事業化の可能性を評価したり、BIの専門家がアドバイスをすることを通じて、パートナーシップを醸成しています。また、優れたアイデアに対しては賞金の授与やスタートアップの支援、ベンチャーキャピタルとのマッチングの機会を提供することもなども行っています。

革新的なイノベーションは、既成の価値観の中からは生まれません。すべてのワクを取り払い、人と人とが出会う中でアイデアがぶつかり、一種の化学反応とも呼べる相互作用の中で育まれます。私たちは、神戸医療産業都市を舞台として研究機関や国内外の製薬会社、誕生して間もないスタートアップ企業とのネットワークの可能性を探り、世界で認められる新薬や人材をここから送り出していきたいと思っています。