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患者さんと交わした、あの日の約束。
ここでならきっと実現できると信じている。

髙橋 政代MASAYO TAKAHASHI

プロジェクトリーダー・眼科医
医学博士

国立研究開発法人 理化学研究所
生命機能科学研究センター
網膜再生医療研究開発プロジェクト

Interview 2019年2月

PROFILE

1992年、京都大学大学院医学研究科博士課程(視覚病態学)修了。京都大学医学部眼科助手を経て、1995年に米国ソーク研究所に留学。当時発見されたばかりの神経幹細胞と出会い、網膜治療への応用を自らの使命と認識して研究活動を開始。京都大学視覚病態学助手、京都大学病院探索医療センター助教授を経て、2006年神戸医療産業都市の中核施設である理化学研究所「発生・再生科学総合研究センター網膜再生医療研究チーム」に赴任。2014年から現職。

「初」の舞台となった神戸医療産業都市

私が、神戸医療産業都市にある理化学研究所に、研究活動の拠点を移したのは2006年。それから10年余りの間に、大きな出来事がいくつもありました。

ひとつは2014年9月、自己由来のiPS細胞を加齢黄班変性の患者さんへ移植する手術に世界で初めて成功したことです。2017年には他家iPS細胞の移植手術にも成功。経過観察も良好で、自家と他家の双方で安全性が確認されたことにより網膜再生治療は臨床応用にむけて大きく前進しました。研究が着実に進めば、10年後には「治らない病気」だった網膜色素上皮細胞の障害に起因する目の病気を、簡単な手術で治せる日がくるかもしれません。

また2017年12月の「神戸アイセンター」開設も、大きな出来事でした。眼科の専門病院と視覚病態学の研究所を融合した同様の施設は、海外ではごく当たり前。それを日本にもつくりたいと思ったのは、大学病院で眼科の臨床医をしていた頃。「神戸アイセンター」の誕生は、まさに夢の実現でもありました。

この神戸アイセンターを中心に、現在はAIを使ったバイオロジーや視覚障がい者の生活支援のための自動運転など、社会科学の領域にまで踏み込んで幅広い研究に取り組んでいます。願いは、ひとつしかありません。それは、視覚に障がいをもつ人がハンディを感じることなく暮らしていける社会を実現すること――。私たちは、その想いを関係者全員が共有し、組織や専門分野のワクを超えて研究活動にあたっています。

研究を支えた、たくさんの力

世界初の移植手術成功や神戸アイセンター設立は、神戸医療産業都市の素晴らしい研究環境と、研究を背後で支える多くの人のサポートがあったからこそ実現できたと私は感じています。

私が神戸に来て最初に驚いたのは、基礎から臨床まで再生治療の研究に必要な設備と施設が、ほぼ完璧に準備されていたこと。それを縦横無尽に活用するチャンスに恵まれたことで、私の研究は大きな飛躍を遂げました。

また運営をバックアップする神戸市の、柔軟で機動的な対応にも驚きました。新たな試みに対して常に前向きで、決して「NO」とはいわない。できない理由をあげつらうのではなく、どうすればできるかを考える――。ほかのどこもできないスピーディーな意思決定と実行力が、プロジェクトに大きな推進力をもたらしました。

人材については、さまざまな分野からエキスパートが集まり、それぞれの持ち場で与えられたミッションを完璧にこなしてくれます。“代わりがいない”優秀な人材に囲まれて、私は自由に思索を広げることができました。

信じて待ち続けている患者さんがいるから

研究活動では、多くの困難に直面し、難しい選択を迫られることもめずらしくありません。そんな時、気持ちを奮い立たせてくれるのは、私を信じて待ち続けている患者さんたちの存在です。「治らないといわれた難病の治療法を必ずつくります」――。大学病院の臨床医だった頃、患者さんと交わした約束を、私はいまも忘れません。その期待を裏切らないためにも、どんな困難があっても屈することなく前を向いて進むことが、私の使命です。いつか必ず、患者さんたちに嬉しい報告をできる日が来る。ふたつの夢をかなえてくれた神戸医療産業都市なら、きっとその日は遠くないと、私は固く信じています。