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「タテ糸とヨコ糸」で紡ぐ未来図。
新産業創造で神戸を世界の拠点に。

川真田 伸SHIN KAWAMATA

センター長
医学博士

公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構
細胞療法研究開発センター

PROFILE

1981年、京都大学理学部物理学科卒業。1990年、神戸大学医学部卒業。1991年から和歌山赤十字病院(血液内科)で臨床医を務める。1998年、京都大学大学院医学研究科(病理系)修了し、米国へ。システミックス社、スタンフォード大学医学部(博士研究員)を経て、2002年に先端医療振興財団先端医療センター研究所主任研究員に就任。2015年より現職。東北大学医学部客員教授、神戸大学医学部非常勤講師を兼務。

再生医療の課題解決にむけて幅広い取り組み

iPS細胞の作製に初めて成功し、世界の注目を集めた日本の再生医療。しかし臨床応用にむけて、多くの課題が残されたままです。たとえば治療効果を評価するモデルはまだなく、安全性試験や造腫瘍性試験の評価基準は未整備のまま。出発原料である人の細胞の規格化や、品質を担保する生産システムづくりは緒についたばかりです。

細胞療法研究開発センターは、日本の再生医療が抱えるそうした課題を一つひとつ解決することで臨床応用や産業化へ橋渡しするために、細胞の検査・評価の基礎研究、臨床試験をサポートする仕組みづくり、安全性を担保する細胞の規格化研究、薬事法に基づく臨床用細胞の製造技術開発など、幅広い取り組みを行なっています。2019年1月には、世界的な医薬品メーカー・ノバルティスファーマから、画期的な免疫細胞療法「CTL019」で用いられる「CAR-T細胞(キメラ抗原受容体T細胞)」の製造技術を導入。臨床試験で重要な役割を期待されています。

iPS細胞で注目を集めたものの、日本の再生医療は世界に遅れをとっています。この状況を打破し、日本の再生医療を世界と戦えるレベルへ押し上げるために、私たちは野心的なチャレンジを始めました。

産業化へ道を開く、細胞規格化と生産革新

さまざまな取り組みが進む中、5〜10年後を展望し、私が特に力を注いでいるのは「細胞の規格化」です。細胞を用いた再生医療で最も大きな課題は、人の手で培養された細胞の品質にバラツキがあることです。では、どんな条件で培養し、どんな方法で分析すればいいのか――。そのためのルールや基準を明確に規定し、安全性が担保された細胞を安定供給するのが細胞規格化の狙いです。

細胞規格化については、現在、「国際幹細胞バンキングイニシアティブ(ISCBI)」など世界中の幹細胞研究機関が集まる場で、活発な議論が進められています。私は、そうした国際会議や海外の学会でも積極的に発言し、センターの取り組みや実績を世界にアピールしています。細胞規格化の国際標準を神戸から発信することそれがいまの目標です。

また再生医療に用いられる細胞は、クリーンな環境の施設で手作業に依存してつくられるため、生産性が高いとはいえません。そこでセンターでは、製造段階のあらゆる情報をIT管理し、検査時間を短縮する「次世代細胞製造システム(SCP)」を異業種と共同開発し、製造現場にイノベーションをもたらそうとしています。

神戸医療産業都市には、公的研究機関から医療機関、350社を数える企業が集積しています。そのタテ糸とヨコ糸を交互に重ね合わせながら、私は、ここでしか描くことのできない1枚の未来図を描きたいと思っています。

新規参入を誘発し、神戸で新たな産業を起こす

センターの一連の取り組みは、将来の「産業化」にむけた布石でもあります。細胞の規格化が進めば、再生医療分野に新たに参入を目指す企業は、新たな商品開発の指針が得られます。また高効率の生産モデルが準備されれば、ビジネスチャンスが広がります。センターの取り組みが起業家のベンチャーマインドを刺激し、企業の参入を誘発することで新たな産業が形成され、神戸医療産業都市の持続可能な発展につながることが私の描く未来です。

既成のワクに縛られるのが苦手な私は、学生時代、勉強を投げ出してインドやヨーロッパを放浪。社会人になってからは仕事で中東諸国を巡り、米国で研究所と大学の研究員を務めた後、2002年に神戸に来ました。そんな私にとって、豊かな自然に囲まれて人も時間もゆっくりと流れる神戸は、根を張れる安住の地です。その未来をつくる仕事に、私は大きな喜びを感じています。